保育料が所得税法上の必要経費として認められないのは違法だとして、税務署の処分取り消しなどを求め、東京都と大阪府に在住する個人事業主2人が2月25日、国を相手取り、東京地裁に提訴した。
原告の2人はそれぞれ、子どもを認可保育園に通園させており、所管の税務署に保育料を必要経費として認めるよう求めた。しかし、所管の税務署は、保育料は業務に関係ない家庭内の支出であるとして、必要経費として認められないと通知していた。
これに対し、原告らは「認可保育園の利用要件の一つに就労があり、保育料は業務上、必要経費である」として、所得税法の解釈と適用に誤りがあると訴えている。
●「保育料は家庭内の支出」とする税務署
原告は東京在住の男性と大阪府在住の女性。
訴状によると、原告2人は2023年分の確定申告をおこなった後、所管の税務署に対し、子どもを扶養するために支出した保育料を「事業所得・雑所得の総収入金額から控除すべきである」などとして、所得税などの更生の請求をおこなった。
これに対し、税務署は保育料は業務に直接関係ない家事上の「家事費」(所得税法45条)に位置付けられているなどを理由に、更生すべき理由がないという処分通知を出した。
所得税法37条1項では、必要経費について次のように定めている。
「その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする」
また、業務に直接関係ない外食費や旅費は「家事費」に位置付けられている(所得税法45条)。
所管の税務署は、原告らに対し、保育料について「親が行う育児について支払ったものであり、家事費に該当する」「業務活動の遂行上、必要なものではない」との見解を示したという。
●「背景には育児は無償で母親がやるべきというモデル」
原告と弁護団は同日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見をおこなった。
弁護団の戸田善恭弁護士は、「これが認められれば、所得税法、保育料も業務遂行のために必要な支出とされる道が開かれると考えています」として、今後、最高裁での判断をあおぐ姿勢を示した。
また、家事費についてもその背景として「そもそもこの税務署の考え方には、育児保育は家庭内で母親が無償でおこなうというモデルに基づいているのではないか」と指摘、「共働き家庭が増えている中、今の社会の実態に合ってないということを、訴えていきたいと思っています」と話した。
会見では、原告の一人で、自身が弁護士で弁護士事務所を経営する倉持尚さんも登壇し、提訴にいたった思いを述べた。
「子育てをしたいと思っている人が、働きながらチャレンジできるようになったらいいなと思っています。保育料が経費として認められることは小さなことかもしれませんが、社会が一歩、前に進むんじゃないか。そんな思いです」