「実家(義実家)の土地に夫婦でペアローンを組んでマイホームを建てる」
そういった話をしばしば耳にします。
土地代はかからないからその分、建物にお金をかけられますし、実家(義実家)にも近くて安心と「いいとこ取り」のようですが、夫婦仲が悪化して離婚しようとした際には一転、「地獄絵図」になるといいます。
弁護士ドットコムにも、同様のケースで「どうしたらよいのか?」という相談が寄せられています。たとえば、ある妻と離婚裁判中という男性は、妻の父親名義の土地に、ペアローンで家を建てました。家の名義は夫婦で半々だそうです。
離婚裁判で、財産分与について話し合っているそうなのですが、家のローンが2500万円残っているのに対し、建物の価格は1000万円で、多額のオーバーローンになってしまい、裁判官からは夫婦ともども、預貯金などの財産分与はなくなると言われているそうです。
こうした夫婦の離婚、複雑そうではありますが、どのような解決方法があるのでしょうか。離婚問題に詳しい柳原桑子弁護士に聞きました。
●実子が住み続けようとした場合の問題点
——相談者の男性は、「土地を含めればアンダーローンになります。この場合でも夫婦のローンはオーバーローンになるのでしょうか」とも言っています。夫婦の財産を、建物だけでなく、親が所有する土地まで含めて考えることはできるのでしょうか。
土地は、夫婦いずれかの親が所有しているものなので、夫婦の財産にはなりません。 この男性のケースでも、土地は妻の親が所有しているもので、夫婦で協力して購入した(建てた)建物だけが夫婦の財産となります。
——では、財産分与するにはどのような方法があるのでしょうか。
よくあるケースとしては、土地の所有者である親の実子にあたる方が、引き続き住み続けるということです。実子にあたる方が、他方配偶者のペアローン分を債務引き受け、または新たな借り入れで返済(借り換え)し、ローンを一本化することが考えられます。
抵当権は、土地にも設定されていると思われますので、実子でない方のローンの担保はなくなる方が親においても納得できると思います。
その場合、共有持分は売買または財産分与により名義移転することが考えられます。結果、親の土地に単独名義の建物を所持する形になるので、権利関係はシンプルにできます。
ただ、住み続ける側が、他方配偶者のペアローン分も実質買い取ることになるので、銀行の審査が通るのかという懸念はあります。また、通ったとしても、負担は大きくなるでしょう。
●実子が住み続けたくても経済的に難しい場合は?
——もしも、実子のあたる方が住み続けたくとも、ローンが通らないなど経済的に難しい場合はどうなるのでしょうか。
その力がない場合は、建物の売却清算を考えます。
親の土地は、親子関係に基づき無償で使用していた(使用貸借)と思われますので、親としても他人に使用させるつもりはなく、建物だけを第三者に売却することは考えにくいです。
また、建物だけ売却しようにも売買代金はローン代金に届かないので、売却及び抵当権の抹消に銀行が応じないと自腹でローン弁済資金を用意する必要があります。
土地所有者の親に建物を買い取ってもらうことも考えられますが、残ローン相当で買い取るのは建物の価値を超えてしまい、価値を超える分は親から夫婦それぞれへの贈与と評価されてしまう可能性があります。
おそらく土地にも抵当権が設定されているはずです。その場合には、土地所有者の親の協力のもと、土地と建物をセットで売却して、ローンを返済することも考えられます。
ただし、土地の売却代金は親のものです。それをペアローンの返済に充てることは、親からの夫婦それぞれへの贈与になってしまいます。土地を売却させた上、代金を贈与させるなど親に負担をかけてしまうことになるでしょう。
●将来のリスク回避、どうすればいい?
——土地の所有者の実子ではなく、血縁関係にない配偶者が「家がほしい」「住み続けたい」と希望した場合は、どうすればよいのでしょうか。
これまでのように土地所有者の親と使用貸借関係を継続しにくくなるので、借地契約を締結し、借地料を支払うことが考えられます。
しかし、借地権を設定すると、最低でも存続期間が30年となり、更新拒絶に正当事由が必要になるなど、親の土地利用の制限が大きくなります。
——一見、メリットの多そうな「実家の土地に夫婦がペアローンを組んで家を建てる」ケースは、離婚時には複雑な問題が発生しそうですね。事前に防ぐためには何をすべきでしょうか。
権利が絡み合うために問題が発生しますので、さらに離婚になると難しい問題が増えると考えてください。
「実家の土地に夫婦がペアローンを組んで家を建てる」というのは、持ち家を持つ入り口の時点では一見良い面もありますが、将来のリスク回避を優先するならば、土地建物の権利関係は単純な方が処理もしやすいでしょう。